能の扇ギャラリー



「“能の扇”について」

 室町時代、能や狂言が芸能として世に登場してきた当初、装束と同じく、扇は堂上貴顕(とうしょうきけん)よりの拝領で役者に贈られることが多かった様です。その後の長い歴史のなかで、能楽の発展に合わせて『能の扇』というジャンルが定まってきたと考えられます。
 能の扇は流儀や曲趣により様々なものが用いられますが、その閉じた時の姿により大きく二種類に分けることが出来ます。閉じると先が銀杏の葉状に広がる『中啓(ちゅうけい)』と、先がすぼまる『鎮メ扇(しずめおおぎ)』の二種類です。因みに、御扇子を『末廣(すえひろ)』と呼ぶのは 中啓 の形状より来ています。
 鎮メ扇 は普通の扇で地謡方など諸役が用い、その形状や寸法は流儀によりキマリがあります。中啓は主役や脇役が用いるもので、その図案は役柄を象徴的に表しており、扇を見るだけで役柄のイメージを掴むことが出来ます。
 扇に描かれる図案の多くは『妻(つま)』と言う雲形を持ちますが、妻が紅色のものを『紅入(いろいり)』と呼んで若い華やいだ役柄に用い、妻が紺色のものを『無紅(いろなし)』と呼んで年老いた地味な役柄に用います。
 扇骨の色には『白骨(しろぼね)』と『黒骨(くろぼね)』とがあり、白骨は神体や男性、現世の役柄に、黒骨は女性、幽玄の役柄と軍扇の意味から武将にも用いられます。
 江戸時代後期までには曲柄と対応した構図のキマリは整えられました。しかし、現代においても、その時々の演出や好みに応じて少しずつ新しい図案が生まれております。やがてその内より、時代を経て新しく定番化して行く図柄が出て来るのかも知れません。


 それでは弊舗所蔵品より、曲柄に応じた代表的な“能中啓”を幾つかご紹介申し上げます。

※尚、こちらでの添文は基本的に観世流のキマリに準拠させて頂きます。




『翁扇(おきなおうぎ)
翁扇画像
蓬莱山図
(ほうらいさんず)


 神そのものとなる翁に用いられます。
 鶴が舞い、海に浮かぶ亀の背に松竹橘を配する、この模様は不老不死の仙人が住む“蓬莱山”を描いています。


使用曲目…「翁」など



『勝修羅扇(かちしゅらおうぎ)
勝修羅扇画像
旭日老松図
(きょくじつろうしょうず)

 源氏方の武将などに用いられます。
 扇そのものを“月”の象徴とみなし、日輪を描くことにより“日月
(じつげつ)”を備え、構図は“軍配”と共通します。また、黒骨で仕立て軍扇とし、旭日に吉祥図案の老松を描き、勝ち戦を象徴しています。

使用曲目…「屋島」「田村」「箙」など



『鬘扇(かづらおうぎ)
紅入鬘扇画像
紅入鬘扇 裏 画像
朱妻明皇貴妃花軍花車図
(しゅづまめいこうきひはないくさはなぐるまず)

 年若い女性や女神の本体など、能の中でも最も華やかな曲趣“鬘物(かずらもの)”に用いられます。
 “明皇”とは唐の玄宗皇帝、“貴妃”とは楊貴妃のことで、官女がとりどりの花を手に華やかに争う様子を描きます。裏面には花車や藤棚が描かれます。画題を替えたバリエーションが非常に多いことも鬘扇の特徴です。


使用曲目…「井筒」「熊野」「杜若」など

『神扇(かみおうぎ)
神扇画像
神扇 裏 画像
商山四皓桐鳳凰図
(しょうざんしこうきりほうおうず)

 神の本体や若い武将などに用いられます。
 表面は、桜花爛漫のもと集う四人の老人“商山四皓”と呼ばれる長寿・廉潔を表わす画題、裏面は吉兆を示す“桐鳳凰”が描かれています。


使用曲目…「高砂」「養老」「小督」など



『負修羅扇(まけしゅらおうぎ)
負修羅扇画像
波濤日輪図
(はとうにちりんず)

 平家の公達などに用いられます。
 
軍扇としての構成は勝修羅扇と同じですが、“貝”を描いた日輪は西海に沈みゆく夕日を表現していると考えられます。修羅扇としての成立は、勝修羅扇よりこちらが先であったようです。

使用曲目…「清経」「忠度」「錦木」など



『無紅狂女扇(いろなしきょうじょおうぎ)
無紅狂女扇画像
片身替鉄線花若松図
(かたみがわりてっせんかわかまつず)

 夫や子に別れた“物狂い”の女性などに用いられます。
 扇面を斜めに切り替えた片身替りは扇図案の手法の一つで“強さ”の表現といえます。色移ろう鉄線と常緑の若松との対比は、物狂う女性の心を象徴しています。


使用曲目…「玉鬘」「富士太鼓」「桜川」など



『鬼扇(おにおうぎ)
鬼扇画像
赤地一輪牡丹図
(あかじいちりんぼたんず)

 格の高い鬼物に用いられます。
 牡丹=“花妖
(かよう)”と鬼を取合せたもので、唐草に大きな牡丹を描きます。般若の面(おもて)と組み合わされますが「安達原」では負修羅扇が使われます。

使用曲目…「葵上」「道成寺」前シテのみ




 
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